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貧血(腎性貧血)について

local_offer腎臓内科貧血(腎性貧血)

はじめに

NOBUヘルシーライフ内科クリニック院長の藤原信治です。
今回は、腎性貧血(じんせいひんけつ)に関しての解説や私見を述べさせていただきます。

腎性貧血とは端的に言うと、腎臓機能の低下により引き起こされる貧血です。
そもそも貧血の定義とはいったい何なのでしょうか?

貧血の定義

貧血とは、『血液中の赤血球に含まれるヘモグロビン濃度が減少している状態』と定義されます。世間の人々は「ふらつき」や「立ちくらみ」症状を貧血と言ったりしていることがありますが、これらの症状を貧血というのは実は間違いなのです。ただ、上記の症状が実際に貧血があって生じている可能性はあり得ます。では、どれぐらい血液中のヘモグロビン濃度が低下していると貧血なのかと言いますと、WHO(世界保健機関)によりますと以下の定義となります。

貧血の診断基準

  ヘモグロビン濃度
男性 13g/dL未満
女性 12g/dL未満
80歳以上 11g/dL未満

では、貧血になると具体的にどのような症状が出現するのでしょうか?
概ね以下の症状が出現するとされています。

貧血になると出現する症状

貧血の原因

貧血はさまざまな原因で生じますが代表的なものを以下に述べます。

鉄欠乏性貧血

最も有名で最も多い貧血が「鉄欠乏性貧血」です。ヘモグロビンの材料は鉄なので、その材料となる鉄分が不足すればヘモグロビンが作られなくなり貧血となる訳です。比較的若い女性の貧血はほとんど鉄欠乏性貧血です。男性や閉経後の女性の鉄欠乏性貧血の原因として最も多いものは「消化管出血」です。鉄分を含むお薬やサプリメントを服用していないのに便が黒くなったり血液の付着を認める場合は消化管出血を疑うことになります。

 

その他の栄養欠乏

アルコール多飲や極端なダイエットなどによる栄養失調からの葉酸欠乏、胃切除後・萎縮性胃炎を背景とするビタミンB12欠乏なども貧血の原因となります。その他、頻度は稀ですが銅や亜鉛の欠乏でも貧血となることがあります。

 

慢性の病気による貧血

慢性腎臓病や関節リウマチなどの膠原病、甲状腺機能異常などの慢性的な病気により発生する貧血です。すべての貧血の約三分の一をこの「慢性疾患に伴う貧血」が占めます。

 

骨髄の病気

血液は全身の骨の中の骨髄という組織で作られます。白血病・骨髄異形成症候群・再生不良性貧血・多発性骨髄腫などの骨髄に異常を来して正常に血液を作れなくなる病気でも貧血の原因となり得ます。

 

その他の貧血

高齢の方に生じる加齢によるテストステロン(男性ホルモン)減少による貧血や、敗血症(肺炎・尿路感染症・腸炎などによる重症感染症)による重篤な急性炎症疾患に伴う貧血などがあり、原因の特定が不明な貧血もあります。


今回のブログのテーマである腎性貧血とは、『③慢性の病気による貧血』に該当し慢性腎臓病のある方に生じる貧血となります。

腎臓が悪いとどうして貧血になるの?

腎臓は尿を作っているだけの臓器ではありません。
腎臓は、赤血球の産生を促す『エリスロポエチン(EPO)』というホルモンを分泌しています。腎臓の機能が低下すると、分泌されるエリスロポエチン(EPO)が減少し、結果として赤血球が作られなくなることで貧血となる訳です。

 

腎性貧血
参考資料:2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン,
CKD診療ガイド2012


上記をふまえ、腎性貧血の定義は以下のようになります。

腎性貧血の定義

腎性貧血とは、腎臓においてヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチン(EPO)が産生されないことによって引き起こされる貧血であり、貧血の主因が腎障害(CKD)以外に認められないもの

つまり、腎性貧血と診断するためには鉄欠乏性貧血など他の貧血の原因を否定しておく必要があります。※腎性貧血は除外診断です

腎性貧血になるとどうなるの?

上述しためまいや倦怠感(だるさ)などの貧血になると起こりやすくなるとされる症状が出現する可能性があります。
ただ腎性貧血を生じる患者さんは、すでに腎機能の低下があるから腎性貧血になってしまう訳ですが、貧血があることによって末期腎不全(いわゆる透析が必要な状態)のリスクになるとも言われており、まだ透析を行っていない腎臓病(保存期腎不全)の患者さんは、貧血の治療をキチンと行うことで末期腎不全に至るリスクを軽減できることになります。

腎性貧血の治療

体の中のエリスロポエチン(EPO)が不足することが腎性貧血の原因ですから、何らかの手段で体内のエリスロポエチン(EPO)を増やすことが出来れば良いわけです。
以下の2つの治療手段があります。


1) 注射薬(ESA製剤:ダルベポエチンαやミルセラなど)
2) 内服薬(HIF-PH阻害薬)

注射薬(ESA製剤:ダルベポエチンαやミルセラなど)

透析を行っていない保存期腎不全の患者さんにはダルベポエチンαやミルセラという薬剤名のESA製剤(エリスロポエチン産生刺激製剤)を2〜4週程度ごとに投与する必要があります。このESA製剤には内服薬は存在しないため、医療機関での皮下注射投与が必要です。このESA製剤の投与により体の中のエリスロポエチンの産生量が増加し腎性貧血改善に繋がります。

内服薬(HIF-PH阻害薬)

HIF-PH(ヒフピーエイチ)ってそもそも何なのかというところからですが、HIFは低酸素誘導因子のことで、低酸素状態になると産生が増加します。このHIFにエリスロポエチンの産生を増加させる働きがあります。通常HIFはPHというタンパク質にすぐに分解されてしまいますが、HIF-PH阻害薬はPHの働きを阻害することによりHIFが分解されずに残ることで結果としてエリスロポエチンの産生量が増加し腎性貧血改善に繋がる訳です(下図参照)。

 

腎性貧血2
※このHIF活性化経路(細胞における低酸素応答の仕組み)を解明された米ジョンズ・ホプキンズ大学のSemenza教授、英オックスフォード大学のRatclife教授、米ハーバード大学のKaelin教授が2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

 

日本では現在以下の5種類のHIF-PH阻害薬を使用することが可能となっています。

・エベレンゾ  (一般名:ロキサデュスタット)
・バフセオ   (一般名:バダデュスタット)
・ダーブロック (一般名:ダプロデュスタット)
・エナロイ   (一般名:エナロデュスタット)
・マスーレッド (一般名:モリデュスタット)

ESA製剤とHIF-PH阻害薬の違い

  ESA製剤 HIF-PH阻害薬
投与方法 皮下注射(保存期腎不全) 経口(飲み薬)
投与間隔 約2〜4週ごと 1日1回(エベレンゾ除く)
投与場所 病院・クリニック 自宅など
副作用 赤芽球癆(稀)
血栓塞栓症・高血圧症(可能性)
血栓塞栓症・高血圧症(可能性)
網膜出血(可能性)
悪性腫瘍(可能性)

 

患者さんから見れば、どう見ても飲み薬のHIF-PH阻害薬の方がラクに使用出来るのですが、HIF-PH阻害薬は多価陽イオンを含有する経口薬剤(カルシウム・鉄・マグネシウム・アルミニウムなど)と一緒に服用するとHIF-PH阻害薬の効果が減弱してしまうことがあったり、内服薬の性質上として飲み忘れたりすることもあり得る為、確実に投与出来るという意味では皮下注射剤のESA製剤の方が安定感がありそうです(医師の側から見て)。
ただ一部の薬剤と同時服用出来ない件に関しては、影響のある薬剤の服用時間をHIF-PH阻害薬の服用前後2時間以上空けるなどの工夫で調整可能です。

上記の表で、HIF-PH阻害薬の副作用の項目が多い件で気になる方がおられると思うので以下に解説します。

HIF-PH阻害薬の副作用に関して

血栓塞栓症・高血圧症

血栓塞栓症とは、脳梗塞や心筋梗塞など血管が血液の塊でつまってしまう病気のことです。貧血の改善以上に過度に赤血球が増えすぎてしまえば、血液がドロドロになり理論上固まりやすくなるという理屈です。また、血液量の増加によって貧血が改善する前より血圧が高くなる可能性があります。これはESA製剤の投与でも起こりうることであり、そもそもこのような合併症を防ぐ目的で、ヘモグロビン濃度の管理基準が定められており(後述します)、管理基準内に収まるように薬剤量を都度調整しますので基本的に心配しすぎる必要はないと考えます。

網膜出血・悪性腫瘍(可能性)

HIFが働きかける遺伝子にはエリスロポエチン(EPO)だけでなく、さまざまな種類の遺伝子があり、そのなかの1つに血管内皮増殖因子(VEGFR)があります。このVEGFRの発現が増えると血管新生や血管透過性の亢進により、網膜出血や悪性腫瘍が増えるのではないかという懸念がHIF-PH阻害薬の開発中から存在しています。しかし、臨床試験において、この網膜出血や悪性腫瘍が明らかに増えたという結果ではありませんでした。なので、あくまで理論上の副作用の可能性として頭の片隅には記憶しておく必要はありますが、過度に恐れる必要はないと考えます。
※私見としては発生する可能性の低い副作用を不必要に恐れるよりも、貧血を改善させることで体調を改善し、人工透析(末期腎不全)に至るリスクを減らす方が余程有意義であろうと考えます。

 

では、ESA製剤やHIF-PH阻害薬を用いた腎性貧血の管理目標はどのようになっているのでしょうか?
日本腎臓学会の診療ガイドラインでは腎性貧血の管理に関して下記のステートメントを発表しています。

腎性貧血の管理へのステートメント(日本腎臓学会診療ガイドラインより)

腎性貧血の疾患概念

CKD(慢性腎臓病)では比較的早期から、腎でのエリスロポエチン産生が低下し、腎性貧血を発症するため、定期検査による早期発見が必要である。

 

腎性貧血治療の意義

腎性貧血のESAによる治療は、CKDに伴うさまざまな合併症予防・治療に有効であり、皮下注射にて早期に開始すべきである。

 

腎性貧血治療の目標

① 保存期慢性腎臓病の腎性貧血目標Hb(ヘモグロビン)値は、11g/dL以上とし、ESAの投与開始基準は複数回の検査でHb値 11g/dL未満になった時点とする。
② 貧血の過剰な改善はESA高用量投与による弊害など、生命予後の悪化をもたらす可能性があるので、13 g/dL超をESA減量・休薬基準とする。すでに心血管合併症を有する患者や、医学的に必要と考えられる患者の上限は12 g/dLにとどめる。

 

鉄剤の補給

保存期CKD患者の鉄剤の補給は、原則経口投与とするが、不十分な場合には静注投与を行う。

※上記をまとめると、おおよそHb 11〜13 g/dLの範囲で管理するのが良いということになります。
※上記ガイドラインのESAの部分をHIF-PH阻害薬に置き換えて読んで貰えると良いです(どちらの薬剤で治療しても管理基準値は同じです)。

ESA製剤もHIF-PH阻害薬も『腎性貧血の治療薬』であり、その使用に長けているのは腎臓病を専門とする医師のみです。腎臓病を専門とする医師は腎臓内科を標榜している医療機関以外にはほぼ在籍していません。

当クリニックは、腎臓専門医・指導医の院長が診療を行っている腎臓内科を専門に標榜している医療機関ですので、腎性貧血の治療ならびにESA製剤やHIF-PH阻害薬の適切で安全な使用を問題なく行うことが出来ます。

NOBUヘルシーライフ内科クリニックでは、生活習慣病を中心に、腎臓病やその他の内科系全般の病気に関する検査・診断・治療を行っております。腎臓が悪いのかどうか気になる方、腎性貧血があるのではないかと気になる方、その他体調に関するお困りごとのある方は遠慮なく当クリニックへご相談ください。

皆さまここまで読んでいただきありがとうございました。

院長 藤原 信治

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