急性腎障害とは
急性腎障害(AKI:Acute Kidney Injury)とは、数時間~数週の間に急激に腎機能が低下する状態で、以前は急性腎不全とよばれていた病気です。尿から老廃物を排泄できなくなり、さらに体内の水分量や塩分量などを調節することができなくなります。さまざまな原因(下記参照)で発症しますが、慢性腎臓病(CKD)と異なるのは適切な治療を行えば腎機能が回復する可能性があります。しかし一部の患者様は慢性腎臓病(CKD)に移行し、やがて末期腎不全に至り腎代替療法(人工透析療法または腎移植)が必要となる場合があります。そのため、急性腎障害を発症した患者様は急性期のみならず、長期的なフォローが必要となる場合も少なくありません。
急性腎障害の症状
症状は腎機能低下の重症度、速さ、原因によって変わります。主なものとしては、尿量減少、むくみ、食欲低下、全身倦怠感などがあります。また、症状が患者さんそれぞれで異なるので、別の病気と診断されてしまうこともあるので注意が必要です。
急性腎障害の原因
急性腎障害の原因は多岐にわたり、病態により大きく腎前性、腎性、腎後性の3つに分類されます。
腎前性
腎前性は全身のどこかに何らかの疾患があり、腎臓への血流が低下することで腎機能に障害が起こるものです。急性腎障害の6〜7割が腎前性によるものと言われており、主な原因としては以下になります。
- 循環血漿量の低下(下痢・出血・嘔吐などによる体液量の低下)
- 末梢血管の拡張(敗血症など)
- 心機能の低下(心源性ショックなど)
- ネフローゼ症候群
- 肝腎症候群
- 腎循環不全(消炎鎮痛薬や利尿薬などの薬剤性、腎動脈狭窄、高カルシウム血症など)
腎性
腎性は腎臓そのものに障害が起こり、腎機能が低下するものです。主な原因としては以下があります。
- 血管障害(播種性血管内凝固症候群、悪性高血圧、溶血性尿毒症症候群)
- 尿細管の異常(急性尿細管壊死)
- 糸球体の異常(急性糸球体腎炎や急速進行性糸球体腎炎など)
- 急性間質性腎炎(下記の薬の副作用、特発性間質性腎炎)
- 薬の副作用(抗菌薬、抗癌剤、造影剤など)
腎後性
腎後性は、腎臓から尿路に異常がおこっているもので、以下の原因があります。
- 尿道・膀胱の閉塞(前立腺肥大、前立腺癌、膀胱腫瘍)
- 両側尿管の閉塞(悪性腫瘍の骨盤内浸潤など)
患者様の病歴、健康状況、血液・尿検査、超音波検査やCTなどの画像検査 、さらに必要な場合は腎生検などを検討することもあります。
急性腎障害の治療
治療法も症状と同じく、腎機能低下の重症度、速さ、原因によって変わります。例えば、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、高度の溢水などが見つかった場合、原因に関わらず直ちに薬物療法などの治療を検討し、場合によっては人工透析療法が必要となる場合があります。同時に、病歴、身体所見および検査所見から急性腎障害の原因を判断し、すぐに治療を開始します。
腎前性の場合
原因疾患の治療、適切な輸液や栄養管理を行います。一番多いのは脱水や低血圧による腎機能障害で、直ちに集中輸液を行い、必要に応じて昇圧剤を使用し腎臓の血流を増やす治療を行います。
腎性の場合
膠原病など自己免疫疾患(血管炎)が原因の腎性急性腎障害に対しては、ステロイド薬などの免疫抑制療法を行い、必要に応じて血管炎の原因となる抗体などの除去を目的とした血漿交換療法を行います。回復するまでの期間は、腎機能の妨げになる薬剤などを避けて適切な輸液、栄養管理を行い、腎臓に悪影響を及ぼさないよう管理します。
腎後性の場合
尿路閉塞や膀胱閉塞などは泌尿器科の領分になりますので、泌尿器科と連携して治療を進めます。
急性腎障害の予後
急性腎障害を発生した場合、約30%の人は腎機能が完全に回復しますが、約60%の人は回復せずに慢性腎不全に移行してしまいます。そして残りの10%の患者様は腎機能が失われて、人工透析療法や腎移植が必要になります。腎機能が回復するかどうかは患者様の年齢、既往歴、急性腎障害の原因などが影響し、特に高齢の方は注意が必要です。いずれにしても早期の治療介入が重要になリます。ので、少しでも異常を感じた場合や健康診断等で指摘された場合は受診するようにしましょう。
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney desease)とは慢性に経過する全ての腎臓病の総称です。主に生活習慣病(糖尿病、高血圧、肥満などメタボリックシンドローム)を背景とする糖尿病性腎症や高血圧性腎硬化症を元に発症したり、糸球体腎炎などが原因で、腎臓の働きが徐々に悪くなっていく病気です。CKDはメタボリックシンドロームとの関連が深く、誰でもかかる可能性があります。患者さんは日本国内に1330万人いると言われています。つまり、20歳以上の8人に1人がCKDであると推定され、『新たな国民病』とも言われています。CKDを放置すると、最終的には大切な働きをしている腎機能が廃絶してしまったり心血管疾患を引き起こしたりして、命に関わる危険性が高い病気です。
CKDの症状
腎不全による症状は、『腎臓の働き』の項目にある「老廃物の排泄」、「水分の調整」、「電解質バランスの調整」、「血液中の酸とアルカリの調整(pHの調整)」、「造血刺激ホルモンの分泌」、「ビタミンDの活性化」、「血圧の調整」などの各働きに狂いが生じて腎機能障害が進行すれば腎不全の症状として出現してきます。
腎機能障害による腎不全の症状
腎臓の働き | 腎不全の症状 |
---|---|
①老廃物の排泄 | ⇒ 尿毒症(全身倦怠感・食欲不振・吐き気・睡眠障害etc) |
②水分の調節 | ⇒むくみ(浮腫)、肺水腫・心不全(肺・心臓に水が貯まる) |
③電解質バランスの調節 | ⇒高カリウム血症(致死性不整脈) |
④血液中の酸とアルカリの調整 | ⇒代謝性アシドーシス(血液が酸性になる) |
⑤造血刺激ホルモンの分泌 | ⇒貧血(腎性貧血) |
⑥ビタミンDの活性化 | ⇒低カルシウム血症(骨粗鬆症) |
⑦血圧の調整 | ⇒コントロール困難な高血圧 |
腎臓の働きの項目にある「老廃物の排泄」、「水分の調整」、「電解質バランスの調整」、「血液中の酸とアルカリの調整(pHの調整)」に関しての機能障害は、人工透析療法を行うことで代償可能ですが、「造血刺激ホルモンの分泌」、「ビタミンDの活性化」、「血圧の調整」に関しての機能障害は、人工透析療法での代償は困難であり、ホルモン補充療法や降圧剤による薬物療法が必要となります。
CKDの定義
下記の1、2のいずれか、または両方の状態が3か月以上続いている状態が慢性腎臓病と定義されます。
1腎障害の存在が明らか
- 尿蛋白の存在、または
- 尿蛋白以外の異常(病理・画像診断・血液検査など)で腎障害の存在が明らかである場合
2糸球体が血中の老廃物などをろ過することができる量
(GFR:糸球体濾過量)が健常な腎臓の6割未満に低下した状態
【eGFR<60 mL/min/1.73m2】
CKDの検査
自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)の早期発見に役立つのが、尿中の蛋白質の濃度などを調べる尿検査と血液中のクレアチニンやシスタチンCを測定する血液検査があります。加えて超音波検査などの画像診断を用いることもあります。
尿検査
尿中微量アルブミン検査
検尿試験紙で尿蛋白定性検査が陰性でも必ずしも安心出来ず、検出されない微量のアルブミン(蛋白質の一部)が尿中に漏れている場合があります。これを「尿中微量アルブミン」と言います。糖尿病初期に尿中にみられ、尿中微量アルブミンの測定は糖尿病の早期発見に役立ちます。
尿蛋白/尿中クレアチニン(尿P/C比)
健康診断での尿定性検査で尿蛋白±や1+などの指摘をうけた場合は、再検査では「尿蛋白/尿中クレアチニン(尿P/C比)」での確認することを勧めます。尿定性検査は尿比重(尿の濃さ)の測定によりある程度は推定できるものの検査時の体液バランスの状態によって尿の濃縮あるいは希釈の影響を受けるため、試験紙での評価では蛋白尿の程度を正確に反映できないのです。「尿P/C比」は、尿中クレアチニン1gあたりの蛋白量であり、「1日あたりでの尿蛋白排出量」を測定することが出来ます(単位:g/gCr)。
尿潜血反応
尿に潜血が混じっている状態は尿を作る腎臓や尿の通り道に何らかの異常が起こっているサインになります。血尿の原因は腎臓内科で扱う糸球体腎炎だけでなく、泌尿器科領域の尿路や膀胱の異常でも生じます。
尿糖
高血糖が続くと尿にも糖分が検出されますので、糖尿病の診断に役立てられます。しかし、糖尿病治療薬であるSGLT-2阻害薬を服用中の方や健康な人も尿糖が検出されることもありますので、血液検査などと合わせて診断を行います。
血液検査
血清クレアチニン(Cr)
血清クレアチニンとは、たんぱく質が分解・代謝されてできた老廃物です。腎臓の機能が低下するほど血清クレアチニン値は高くなります。
クレアチニン値は腎機能を知る上でとても重要な検査値ですが、気をつけなければならない点があります。筋肉の老廃物であるクレアチニン値は、個人の筋肉量に左右され、腎機能が同じで合っても男性よりも女性、若年者よりも高齢者の方が低値となる傾向があります。また、クレアチニンは腎機能(GFR:糸球体濾過量)が50%以下に低下するまでは上昇しないため、軽度の腎機能障害の判定には適していません。
血清尿素窒素(BUN)
血清尿素窒素は、血中の尿素に含まれる窒素量を示します。たんぱく質が分解されるとアンモニアになり、肝臓で尿素に変わります。最終的に尿素は腎臓でろ過されますが、腎機能が低下しているとこの数値が高くなります。
シスタチンC(Cys-C)
通常、腎機能検査として使用されている血清クレアチニンや尿素窒素は食事や筋肉量、運動の影響を受けますが、血清シスタチンCは食事や炎症、年齢、性差、筋肉量などの影響を受けないため、小児・高齢者・妊産婦などでも問題なく測定できます。また、クレアチニン値はGFRが30mL/min(腎不全)前後まで低下した頃から上昇するのに対し、シスタチンCはGFRが70mL/min前後の軽度〜中等度の腎機能障害でも上昇し、腎機能障害の早期診断に大変有用です。
従って、血清クレアチニンや尿素窒素が正常であっても、尿検査で尿蛋白あるいは尿潜血反応に異常が認められた場合には早期腎症と考え、血清シスタチンCを検査します。血清クレアチニン値が既に高値(2mg/dL以上)であれば、シスタチンCを測定する意義はありませんが、クレアチニン値の軽度上昇例で腎機能の評価が困難な場合はシスタチンC測定による腎機能評価をお勧めします。
推算糸球体濾過量(eGFR)
血液中のクレアチニン値(Cr)あるいはシスタチンC(Cys-C)と年齢・性別から計算式を用いて腎機能(推定糸球体濾過量:eGFR)を調べる検査です。
糸球体濾過量(GFR)の世界的標準はイヌリンクリアランスですが、煩雑な検査であるため現在では日本腎臓学会が提唱する日本人による推算GFR(eGFR)が広く利用されています。eGFRは主にクレアチニン値(Cr)由来の計算結果を指すことが一般的ですが、シスタチンC(Cys-C)由来のeGFRと区別する為に、前者は『eGFRcreat』、後者は『eGFRcys』との記載で区別されます。
eGFRの数値が低い人ほど腎機能が低下しています。eGFRの数値により慢性腎臓病(CKD)のステージ(腎機能障害の程度)はステージ1(G1)〜ステージ5(G5)の5段階に分類されます。慢性腎臓病の重症度は「腎臓病の原疾患×腎機能障害の区分(G)×蛋白尿・アルブミン尿区分(A)」の組み合わせから判断します(下表のCKDの重症度分類参照)。
CKDの重症度分類
※スクロールで全体を表示します。
原疾患 | 蛋白尿成分 | A1 | A2 | A3 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
糖尿病 | 尿アルブミン定量 (mg/日) 尿アルブミン/Cr比 (mg/gCr) |
正常 | 微量アルブミン尿 | 顕性アルブミン尿 | ||
30未満 | 30~299 | 300以上 | ||||
高血圧 腎炎 多発性嚢胞腎 移植腎 不明 その他 |
尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) |
正常 | 軽度蛋白尿 | 高度蛋白尿 | ||
0.15未満 | 0.15~0.49 | 0.50以上 | ||||
GFR区分 (mL/分/1.73㎡) |
G1 | ≧90 | 正常または高値 | |||
G2 | 60~89 | 正常または軽度低下 | ||||
G3a | 45~59 | 軽度~中等度低下 | ||||
G3b | 30~44 | 中等度~高度低下 | ||||
G4 | 15~29 | 高度低下 | ||||
G5 | <15 | 末期腎不全(EESKD) |
重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する。CKDの重症度は死亡、末期腎不全、心血管死亡発症のリスクを緑のステージを基準に、黄、オレンジ、赤の図んにステージが上昇するほどリスクは上昇する。
(KDIGO CKD guideline2012を日本人用に改変)
日本腎臓学会、CKD診療ガイド2012、東京医学者:3,2012
その他の血液検査項目
腎臓の機能が低下すると尿酸や電解質(ナトリウム、カリウム、クロール、カルシウム、リンなど)の検査で異常が出てくる場合があります。また、造血ホルモンの異常により、ヘモグロビン、ヘマトクリットなどが減少し、貧血を示すようになります(これを腎性貧血と言います)。
主なCKDの原因疾患
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は糖尿病の細小血管合併症の(腎症、網膜症、末梢神経障害)の一つであり、糖尿病の罹患後10〜15年以上経過してから発症することが多いとされています。1998年以降、糖尿病性腎症は透析導入原因疾患の1位となっています。
腎硬化症
高血圧や加齢による影響で動脈硬化が起こり、腎機能が徐々に機能を失っていく疾患です。腎臓糸球体の細動脈に動脈硬化が起きると、腎臓の濾過機能が低下してしまいます。腎臓に血液が十分供給されないことで腎臓の細胞が死んでしまい、腎臓が萎縮して硬くなるため腎硬化症とよばれています。腎硬化症は増加傾向にあり現在透析導入原因疾患の2位となっています。
慢性糸球体腎炎
慢性糸球体腎炎は、腎臓の糸球体に持続的な炎症が生じることで、蛋白尿や血尿が長期間持続する疾患です。慢性糸球体腎炎は一つの病気ではなく、腎臓に炎症を起こすさまざまな腎臓病の総称になります。慢性糸球体腎炎で代表的な疾患は IgA腎症で、世界で最も多い腎炎であり、特に日本人を含む東アジア人に多いとされています。慢性糸球体腎炎は透析導入原因疾患の3位となっています。
透析導入となった原疾患の割合
日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)より引用
*透析の原因疾患は「糖尿病性腎症」、「腎硬化症」、「慢性糸球体腎炎」で全体の70パーセント以上を占めています。
CKDの治療
現代医療においては残念ながら慢性腎臓病(CKD)に対する特効薬はありません。
CKDの治療の目的は、日常生活の質を著しく損なう末期腎不全(腎代替療法が必要)へ至ることを阻止する、あるいは末期腎不全へ至る時間を遅らせることです。
生活習慣の改善
肥満症やメタボリックシンドロームの解消、禁煙などの生活習慣の改善はCKDの進行抑制だけでなく心血管病の発症防止に繋がります。
食事療法
塩分を取り過ぎないことや蛋白質を取り過ぎないなどの食事療法によって腎不全の進行を抑制することで、結果として透析導入を遅らせることができます。透析導入後であっても体調を保ちながら安定して透析を続けていく為には食事療法は必要です。
薬物療法(高血圧治療)
腎臓と血圧は密接に影響しあっており、腎臓が悪くなれば血圧は上がりやすくなります。また血圧が上がると腎臓糸球体の内圧が上昇し腎機能の悪化の原因となります。そのため、腎臓病の治療に適切な血圧のコントロールは必須です。血圧を適切に管理することで腎機能の低下を防止します。
薬物療法(尿蛋白・尿中微量アルブミンの減少)
薬物療法(尿蛋白・尿中微量アルブミンの減少) CKD進行を抑制する為には尿蛋白の排出量を可能な限り減少させることが重要です。多数の降圧剤の中から腎臓病に優位性のある薬剤を選択したり、必要に応じて尿蛋白減少作用や腎保護作用のあるSGLT-2阻害薬なども併用します。
脂質異常症の治療
脂質異常症は動脈硬化進行により心血管病やCKD悪化の原因となります。そのためCKDにおいて心血管病や末期腎不全の発症を抑制するためには、脂質異常症の治療は不可欠です。
糖尿病・耐糖能障害の治療
糖尿病はCKD悪化の主要原因であり、血糖コントロールの厳格化は心血管病や末期腎不全の発症を抑制するために重要です。
貧血の治療(腎性貧血)
腎臓はエリスロポエチンという造血ホルモンを分泌している臓器であるため、CKDが悪化すれば腎性貧血を発症します。これは体内に鉄分が十分にあったとしてもエリスロポエチンの不足で鉄分が造血に利用出来なくなるため起こる貧血です。また貧血そのものもCKD進行の危険因子であると同時に心血管病の危険因子であるため貧血の管理は末期腎不全や心血管病の発症を抑制するために重要です。エリスロポエチン製剤は以前は皮下注射薬のみでしたが、昨今は飲み薬も世に出てきました。
骨やミネラル代謝異常(CKD-MBD)の治療
腎臓は副甲状腺ホルモン(PTH)などのホルモンの調節を受けてカルシウム(Ca)やリン(P)を尿中に排泄する一方で、活性型ビタミンDの産生臓器として働き、腸管でのカルシウム吸収や骨代謝の維持に密接に関与しています。したがって、CKD悪化が進行すると、活性型ビタミンD低下やリンの蓄積とともに、さまざまな骨病変、ミネラル代謝異常が出現します(CKD-MBD)。またCKD-MBDは血管の石灰化からの全身の動脈硬化症進行の原因となるため適切な治療介入が必要です。必要に応じて活性型ビタミンD製剤やリン吸着剤の投薬を行います。
尿毒症毒素に対する治療
尿毒症毒素の発生を減らす為には蛋白質を摂取しすぎないことが大事ですが、経口吸着薬の確実な服用も大事です。尿毒素が体内に蓄積してくると代謝性アシドーシスとなり全身状態が悪化しますので、代謝性アシドーシス補正を目的に重炭酸ナトリウムの処方を必要に応じて行います。
CKD を悪化させる原因を避ける
脱水
体内の水分が不足すると腎臓の血液の流れが悪化し腎機能悪化の原因となります。浮腫の存在など何らかの理由で水分摂取制限が必要な方でなければCKDの治療として、お水やお茶での積極的な水分摂取が推奨されます。
解熱鎮痛剤の使用
痛み止めとしてよく処方されたりドラッグストアでも販売されている非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる解熱鎮痛薬を頻回に使用しているとCKD悪化の原因となります。強い痛みでNSAIDsの使用がやむをえない場合がありますが、必要最低限度に止めておくことが重要です。
喫煙
喫煙はCKDの独立した危険因子であり、喫煙はCKD患者さんの尿蛋白量を増加させ腎機能障害の進行を促進します。1日20本の喫煙者が末期腎不全に至る危険性は、非喫煙者の2倍以上と結論されています。
ビタミンD製剤の過剰な投与(高カルシウム血症による腎不全)
骨粗鬆症などでの治療で必要のため活性型ビタミンD製剤が処方されたりしますが、カルシウム値を血液検査で確認しないままでの長期服用で気づかれないまま高カルシウム血症となり急性腎不全を引き起こしてしまうケースを腎臓専門医として多々拝見してきました。ビタミンD製剤が悪いのではなく血液検査で定期的にカルシウム値を確認していただき必要量を調整していただく事が重要です。
CTやMRIの撮影時における造影剤の使用
造影CT検査で使用されるヨード造影剤で生じる腎機能悪化を造影剤腎症と言います。一般にCKDは造影剤腎症のリスク因子とされていますが、近年の研究報告によりeGFR<45mL/min/1.73m2においても造影CTで造影剤腎症を発症する可能性が低いことが分かってきています。しかし現時点ではエビデンスが十分と言えるほどに至っていないと判断され、2018年に改訂された『腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018』では、eGFR<30mL/min/1.73m2 の高度腎機能低下を有する患者さんに対して造影CTを行う際には、念のために造影剤腎症に関する説明と適切な予防策を講じることが推奨されています。また、造影MRIで使用されるガドリニウム造影剤の使用はeGFR<30mL/min/1.73m2 の方には四肢末端の腫脹と疼痛、時に拘縮や皮膚硬化をきたす腎性全身性線維症(NSF)の発症リスクを高める為に『禁忌』とされています。
全身状態の悪化
肺炎などの重症感染症や狭心症・心筋梗塞などの入院治療を要するような全身状態の悪化を来した際にCKDの急性増悪がよく見られており、場合によっては透析導入に至ってしまうケースもあります。
CKD患者さんは新型コロナウイルス感染症などによる肺炎発症リスクが高い為、特に注意することが必要です。